さて、これまで根管洗浄における話を何回かしてきました。
キビキノ歯科で自分が用いる洗浄の手法は複数の論文が根拠になっています。今回は、NaOClに焦点を当てます。
目次
1. 【濃度の根拠】組織溶解スピード
Stojicic et al. (2010) "Dissolution of porcine incisor pulps in sodium hypochlorite solutions of varying concentrations and temperatures" (Journal of Endodontics)
- 内容: 5.25%、2.5%、1%のNaOClで組織溶解速度を比較した研究。5.25%は低濃度に比べて圧倒的に速く組織を溶かす。
- 考えること: 治療時間内にファイルが直接触れないイスムスや側枝の組織を化学的に溶解するには、5%以上の濃度が実用的。低濃度でこれを達成しようとすれば非現実的な長い時間がかかるぜ、いやだなぁ。
2. 【液量の根拠】有効塩素(FAC)の枯渇といった面から
Macedo et al. (2010) "Reaction rate of NaOCl with bovine dentine: effect of concentration, macula, and temperature" (International Endodontic Journal)
- 内容: NaOClの消耗の早さを証明したもの。NaOClは象牙質や有機質(歯髄組織、細菌)に触れた瞬間、急激に化学反応を起こし、5.25%でも2分以内で有効な成分を失いただの塩水になる。
- 考えること: いくら5%〜6%の高濃度を使っても、根管内という極小スペース(約0.01〜0.05ml)に留まっている量では、一瞬で有効塩素が枯渇し反応がストップ、それ以降意味なし。常に化学反応を維持するためには、劣化した液を絶え間なく洗い流し、新鮮な次亜塩素酸イオンを供給し続ける。1根管あたり少なくとも1ml以上という液量が必要なんじゃないかな。
- 高濃度でなければ有機質やバイオフィルムなどを溶解しきれない(Stojicicら)
- 大量の新鮮な液を供給し続けないと有効成分が枯渇し消毒洗浄効果がない(Macedoら)
有機質溶解作用の濃度とのトレードオフ
濃度を低くすると、同じことを成し遂げるのに必要な時間、液量が反比例して増えていくのは誰でも知っていることです。
以下の表は根管内の容量が0.03mlと過程して考察しています。
濃度が下がると反応速度が下がるのでその分余計に時間も液量も増えます。
| 濃度 | 時間(1根管) | 液量(1根管) | 有効濃度維持できる時間 |
| 6% | 60秒 | 1~2ml | 30〜45秒 |
| 3% | 3〜5分 | 5~10ml | 10〜15秒 |
| 1% | 20~30分 | 30~50ml | 0秒 |
1%を使うときは45〜60℃に加温して反応性をあげて連続潅流で使わないと、何がしたいかよくわからんってことになります。もちろん有機デブリが多い場合は、有効濃度を保てる時間も短くなります。
断続的な使用においては、器具の交換時間や連続アクティベーションする時間20sx3 合計60s(van der Sluisら (2009))を考えると3%濃度じゃ役立たずになることも予想できます。
書いていないけれど、理系の考え方ができる人間であれば理解できると思います。
ここまでは、有機質溶解作用の話。
バイオフィルムに対する話
歯内療法の成功の鍵は、根管内の感染物質を出来うる限り減らすことです。
感染物質が閾値を下回れば治癒に向かうし上回れば病気になります。そして、この閾値は変動します。
感染物質の90%以上はルーズなデブリです。こいつらは濃度気にせず洗えば取れます。残りはバイオフィルムです。
歯内療法はバイオフィルム感染症との戦いです。バイオフィルムが閾値以上存在している場合、バイオフィルムに対する有効性が担保されなければ治癒しません。
そしてこのバイオフィルムに対する有効性は、臨床的には5.25%以上じゃなきゃ担保できません。
Spratt et al. (2001) "An in vitro evaluation of the antimicrobial efficacy of irrigants on biofilms of root canal isolates."
Radcliffe et al. (2004) "Antimicrobial activity of varying concentrations of sodium hypochlorite on the endodontic microorganism Enterococcus faecalis."
これらからバイオフィルムに対して比較的短時間で有効なのは5.25%以上です。濃度が低いもの(3%未満)は浮遊菌やデブリには有効でもバイオフィルムに対しては効果がうすく、まるっと残ります。
百歩譲ってイニシャルトリートメントにおいては、バイオフィルムがない前提で低濃度でも良いかもしれませんが感染根管においては3%未満ではバイオフィルムは除去することは難しく、治癒したとしても術者が意図的に治る環境を整えたのではなく偶然治癒したにすぎないと考えています。
ラッキーなことにバイオフィルムを減らさずとも病気になる閾値以下だったってそれだけの話なのです。
反論の封殺(笑)と言う名の自分への戒め
自分は治るべくして治る環境を作れる人間であり続けたいと考えているので、洗浄消毒においては6%濃度のNaOClを合計60s以上アクティベーションしながらの連続的潅流をルーティンの中に組み入れています。
他にも色々ありますが、濃度選択と時間の有効性については今のところこの考えです。
1%濃度でも大丈夫という人の根拠になる論文もいくつかあるのですが、液量としては30ml以上だったり時間にして20~30分以上だったりと臨床上非現実的な要素が含まれています。アクティベーションすればバイオフィルムもいけると読めるものもありますが、それらはチップによる物理的な破壊であってチップが触れることができない場所には有効でないことが確認できます。
濃度も時間も液量も根拠が希薄なまま、低濃度を選び、ちょっとの液量で、ものの数秒アクティベーションしてる人もいますがほんと意味ないからね!トレードオフの関係よ。臨床で根拠ある治療を行う際に、5.25%NaOClをつかったとて最低60s、1ml以上必要なのよ!場合によっちゃ3分5ml以上必要よ。
高濃度使うと、象牙質内のコラーゲン繊維にダメージが及んで歯質脆弱になります。気をつけてねって論文がある。Sim et al. (2001) や Grigoratos et al. (2001) など
だけど、これらは12分から2時間のあいだ大量の薬液のなかにどぶ漬けにした結果で臨床ではあり得ない量の薬液にさらされている。しかも薄い切片にしてというおまけ付き。
臨床で行う作用時間と薬液量で同等のことは起こり得ない。
これが万一臨床でも起こりNaOClに浸透性があるなら、象牙細管などにあるバイオフィルムも溶かし切るから、100年以上歴史のあるこの分野でバイオフィルム感染症なんて問題はこの世に存在せずに、歯質の脆弱化による破折が大問題になっているはずよ。ですので、低濃度である必要はないと考えています。
Morphological Analyses of Effects of Endodontic Irrigant Solutions Using a Root Canal Model and an Immersion Model
これは、どぶ漬けモデルでエロージョンがー!!て言う危機を煽った論文へ根管モデル(臨床に即した条件)で行った論文で全く影響がないって証明したもの。臨床ではあり得ないことをして危機感煽ってきたから、おかしいよねーって、やっぱり気にしなくて良いということをわざわざ行ってくれた論文。ここで使われているEDTAとNaOCl(10%)。NaOClは臨床では使わないくらいの高濃度。これより濃度が低いなら言わずもがな。
論文はそれが意味するものを理解しないと良質な論文なのか、ろくでもないのかがわからない。雑にやるととんでも論を掲げて正しいつもりで間違ったことをやっちゃうことになるので気をつけませうと日々自分に言い聞かせております。
