近頃、海外のジャーナルを漁っていると「ハイドロゲル」を用いた新しい根管充填材の論文が目に留まるようになりました。FDAの認可も下りた『OdneFill』という製品です。
光照射で硬化をコントロールでき、極めて高い親水性で複雑な根管網に入り込む。メーカーの理屈やDe-Deusら(2025)を見れば、接触角34.8度という圧倒的な濡れ性で、物理的な封鎖性については既存の材料を凌駕するポテンシャルを秘めているように思います。細菌の酵素で分解されないという記載(Journal of Endodontics, 2024)もあり、材料の観点から非常に面白いなぁって思ってます。
色々と調べてみた結果、キビキノ歯科の臨床においては、これまで通り「ケイ酸カルシウム系(CSS、CSC)」でいくのが最も理にかなっているなというのが現時点での結論です。
同業の先生方なら頷いてもらえると思うのですが、一番の理由は「セメント質の添加(Cementogenesis)」の有無です。
難症例や、大きな根尖透過像を伴うケースでは特に、単に根管という空間を物理的に塞ぐ(メカニカルインターロック)だけでは不十分だと考えています。OdneFillのハイドロゲルは、水分を吸って膨潤圧で壁に密着し続けるものの、そこから先の生体組織を積極的に誘導する力はないようです。また、ハイドロゲルの特性として水分量に影響を受けることが予想されます。乾燥方向に、根管内が傾いた時や長期経過で材料の劣化が起こった場合も不安です。
一方で、CSSやCSCには生体組織を誘導する力があります。Zhangら(2009)やTorabinejadら(2018)の長期予後に関する研究でも明らかなように、ケイ酸カルシウムは周囲の体液と反応してハイドロキシアパタイトの層を形成し、それが足場となって骨芽細胞やセメント芽細胞を呼び寄せます。万が一溢出した材料であっても、マクロファージが修復へと導き、最終的にはセメント質様硬組織によって封鎖されます。
簡単に言うと「生体が自ら蓋を作り生体組織と一体化させる」という治癒機転こそが、治癒力や予知性を飛躍的に高める最大の要因だと考えています。
OdoneFillという材料の優れた操作性や初期の浸透力は確かに魅力的です。CSC,CSSがこの世に存在していないのであればもうちょっと悩むかもしれません。けれども、根管治療の最終ゴールは生体組織の調和と組織再生が大事かなとつくづく思っております。10年、20年先を見据えた時、キビキノ歯科が提供したいのは、生体が本来持つ修復力を最大限に引き出す治療です。その点で、ハイドロゲルを選択すると一歩二歩後戻りすることになるわけです。
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