こういう話をするときに大切なのは、最低限査読付き論文ベースで議論しなきゃお話にならないってこと。
それ以外の良くわからない本や誰かの与太話、査読なしの感想文レベルの発表は医学的に信用できません。
また、科学的に否定されたことを持ち出すのはもはや宗教です。
国家試験を受けたならだれでも知っていることなのですが、、、。
残念ながら、そういう医学的根拠に欠けるモノを根拠にするような人が一定数存在します。

1. 意識的かは知らないが曲解のベースを紐解いてみる

もし有効な論文ベースでお話しされているのであればおそらく拠り所にしているのは、辺縁性歯周炎(Periodontitis)に関する論文だと思います。「慢性的な炎症」や特定の歯周病菌(Porphyromonas gingivalisFusobacterium nucleatumなど)が、口腔癌や消化器癌などの発症リスクを上げるという研究あたりではないかと思っています(引用: Periodontitis and oral cancer - current concepts of the etiopathogenesis, PMC7097927, 2020年など)。 これを根拠に、「歯周炎=慢性炎症=ガンになる!」という図式を、本来原因が全く異なる根尖性歯周炎(Apical Periodontitis: AP)にまで無理やり当てはめている可能性があります。

2. 根尖性歯周炎(Apical Periodontitis: AP)と癌の鑑別診断

APは根管内の感染に起因する局所的な炎症反応です。「APが直接ガンを引き起こすから抜歯しろ」なんて推奨している真っ当な医学論文は、この世に一つもないはずです。(自分が調べた限りでは)

APの医学的な標準治療は、根管内の感染源を徹底的に除去する根管治療です。適切な治療を行えば病変は治癒するってのは、世界中の教科書や論文が証明してます。

ただし、「エナメル上皮腫(Ameloblastoma)や他の悪性腫瘍などが、レントゲン上でAPのように見える」ってことはあります。

つまり、「APがガンになる」んじゃなくて、「ガンや腫瘍をAPと誤診するリスクがある」ってだけのことです。

3. とてつもない矛盾

 簡単に言うと、もともとは「歯周炎=即ガン」という直接的な原因ではなく「辺縁性歯周炎(Periodontitis)の慢性的な炎症や特定の歯周病菌が、口腔ガンのリスクを高めるメカニズムのまとめ」というのがPeriodontitis and oral cancer - current concepts of the etiopathogenesisの内容です。だから、論文の主張自体は真っ当です。

けれどもこれを根拠に癌になるなんてとてもじゃないけど言える内容ではないです。

千歩譲って、癌になるとしても大きな矛盾を抱えることになります。
「慢性炎症と特定の菌がガンを作るから抜歯だ」って言うなら、まずは世の中の歯周病患者の歯を全部抜かなきゃ辻褄が合わなくなります。

2001年のギネスブック(Guinness World Records 2001)に

「全世界で最も患者が多い(蔓延している)病気は、歯周病である」

記録には「地球上を見渡しても、この病気に冒されていない人間は数えるほどしかいない」ってな具合で紹介されています。要するに、人類史上最大の感染症ってことのお墨付きをもらってます。

ネジ屋はどれだけの人間の歯を抜くつもりでしょう?

さらに傑作なのが、「インプラント周囲炎(Peri-implantitis)」が抱える矛盾です。

医学的に見ても、インプラント周囲炎の細菌叢は、重度の歯周炎とそっくりなんです。当然、Porphyromonas gingivalisTannerella forsythia といった厄介な細菌がうようよ繁殖するし、チタンの周囲で炎症性サイトカインが出っ放しになります(引用: The microbiome of peri-implantitis: a systematic review and meta-analysis, J Dent Res, 2017 など)。

そして、インプラント周囲炎の罹患率は20~50%ほど、骨吸収の手前である軟組織の炎症「インプラント周囲粘膜炎(Peri-implant mucositis)」まで含めると、実に患者の50〜80%近くがインプラント周囲に何らかの炎症を抱えているというのが現在の医学的な認識です。

つまり、抜かなきゃガンになるなんていう人たちの理屈が仮に正しいとすると、
「ガン予防のために歯を抜いてインプラントにしましょう。」て言葉はがん予防のために歯を抜いたのに、20~80%の人にとっては癌になる原因を埋入するというとんでもない矛盾を抱えることになります。

おかしいなって思うよね(笑)。
要は、ネジ屋がインプラントで儲けるために言うてるんだろうなって思っちゃうわけです。

4.そのほかの可能性


「病巣感染説」ってのが100年以上に提唱されその後否定されたやつがあるんですが、もしかするとこれのことかもしれない。

  • Price, W. A. (1923). Dental Infections, Oral and Systemic.

ウェストン・プライスと、エドワード・ローゼナウ(Edward Rosenow)が提唱した「選択的局在説(Elective Localization)」。彼らの主張は「感染した人間の歯をウサギの皮下に埋め込むと、元の患者と同じ全身疾患(心疾患や関節炎など)がウサギにも発症する」というものだった。 これを根拠に「無症状の根管治療歯は全身を蝕む毒の供給源だ!全部抜け!」という狂乱が1920年代に巻き起こったらしい。

実験デザインもおかしくて、、、もはやネタか?

ところが、これには致命的なそれこそ笑っちゃうような科学的欠陥があった。それを完膚なきまでに論破したのが以下の論文や報告。

  • Easlick, K. A. (1951). "An evaluation of the effect of dental foci of infection on health" (Journal of the American Dental Association)
  • Pallasch, T. J., & Wahl, M. J. (2000). "The focal infection theory: appraisal and reappraisal" (Journal of the California Dental Association)

Pallaschらのレビューでも痛烈に批判されているプライスのウサギの実験ってのは、そもそも「実験モデル」として完全に破綻していたようです。

要約すると
体重数キロの小さなウサギの皮下に、細菌がウジャウジャいる人間の歯を丸ごとブチ込みました。ウサギからすれば「持続的な微小感染」どころか「急性の大規模敗血症」を引き起こして当たり前です。 対照群(コントロール)として「無菌の歯」を埋め込んだ場合でも、強烈な異物反応で似たような病変が出るというお粗末な実験デザインだったことが後年暴かれました。信頼性0てのが確定しているんだよね。

この論文が示しているのは「根尖性歯周炎が引き起こす慢性の全身疾患」なんかじゃなく、単なる「異物と大量の細菌による急性の中毒症状」に過ぎなかったってことです。

この事実をもとに、1951年のEaslickらによるJADAの特別報告によって、米国歯科医師会(ADA)は「病巣感染説は科学的根拠に乏しく、不必要な抜歯を推奨するものである」と、この説は完全否定されました。

なもんで、この論文根拠にものいう人は科学的な考察ができない人という烙印を押してしまって良いのですが、近年またそれで本書いた方がいるらしくて、、、、。

タチの悪い論文の悪用


自説を正当化するためにこんな真っ当な論文のタチの悪い悪用があります。

  • Cottiら(2011年、Journal of Endodontics: 根尖性歯周炎(AP)を持つ患者は、血中のCRP(C反応性蛋白)やインターロイキンなどの全身的な炎症マーカーが上昇していることを示した研究。

この論文が示している事実自体は正しいです。根っこの先に膿が溜まる「病気(炎症)」を放置すれば、それが火種となって全身に悪影響を及ぼす。ここまでは現代医学の常識です。

ところが「ほら見ろ!歯の根の病気は全身を毒する!根管治療をしても細菌はゼロにならないから、治療した歯も結局は毒の塊だ。だから抜け!」と飛躍させるところがアタオカです。

Garridoら(2019年、Journal of Endodontics: 根管治療が全身の炎症マーカーに与える影響を調べたシステマティックレビュー。結果として、適切な根管治療を行うことで、上昇していたCRPなどの全身的な炎症マーカーは有意に「低下」することが示されている。

Segura-Egeaら(2015年、International Endodontic Journal): 根尖性歯周炎(AP)を放置すれば、局所の炎症性サイトカイン(IL-6やTNF-αなど)が血流に乗り、糖尿病や心血管疾患の悪化要因になり得ることを示唆。

感染状態を放置することの危険性は現代医学でも真っ当に議論されています。その上での結論があります。

米国歯内療法学会(AAE)は、病巣感染説を公式にキッチリと否定しています。

Caplanら(2006年、Journal of Dental Research): 疫学調査において、適切に根管治療が行われ治癒した歯が、冠動脈疾患などの全身疾患のリスクを上げるという科学的根拠は一切ないと結論。

ま、というわけで1人のアタオカが科学的には否定されている自説を発表するために書いた本を根拠に癌になるなどとのたまう専門家はいないと思いますがいたら教えてあげてください。

歯を抜いてインプラントなんてその人が言うならまた矛盾のループよね。
炎症と細菌があかんのに20〜80%の人がインプラント周囲に炎症を抱えるのにそれ埋入する?

万一アタオカ説が正しいとして歯を抜くことに正当性があっても、そのアタオカ説に則れば高確率で癌になる可能性になるインプラントを埋入するわけよ。
論理が破綻している(笑)。
むしろ、癌の危険性を知った上で行う行為になるから倫理的に問題あるし、行為そのものが医療ではなく傷害行為にあたると解釈されてもおかしくない。
本来なら入れ歯以外はすすめちゃダメよね、このアタオカ説を支持するのであれば(笑)。

でも、そんな医学的事実はないので大丈夫ですからね。

結論

最終的に何が言いたいかというと、根尖性歯周炎はちゃんと治療して奏功すれば全身に悪影響を及ぼさないし癌になることもないよってのが言いたいのですよ。

追記

昔はpubmedなどをあたって論文探して関連するの読んでって調べ物するの大変でした。
昨今は、OpenEvidence という医療従事者が無料でアクセスできる信頼度が高い論文で構成されたAIを多用しています。これは、ほかのAIと違い捏造や嘘がまぎれません。根拠の論文にもすぐ当たれます。最高です。今回も、かなり利用しました。

さて、そうなると今回のテーマ「病巣感染論」についても聞きたくなるのが人間です。

OpenEvidenceによる評価

「病巣感染論(Focal Infection Theory)」の歴史的経緯

このような書籍の多くは、20世紀初頭に流行した「病巣感染論」に基づいています。この理論の歴史的評価は以下の通りです: [1-3]

  • 1900年代初頭~1930年代:口腔感染(特に根尖性歯周炎や歯周炎)が関節炎、心疾患、神経変性疾患など多数の全身疾患の原因であるとされ、広く受け入れられました
  • 1930年代以降:具体的な科学的根拠の欠如と、適切な症例選択を無視した過剰な抜歯治療の弊害により、この理論は医学界から否定されました [1]
  • 理論が否定された理由:逸話的証拠のみで科学的に管理された研究がなかったこと、社会的・経済的要因によって受け入れられた側面が強かったこと [3]

現代の科学的見解

現代の研究では、口腔感染と全身疾患の関連について以下のことが分かっています:

歯周炎(periodontitis)について

  • 心血管疾患、糖尿病との統計的関連は報告されています [2]
  • しかし、因果関係は証明されていません [2][4]
  • 歯周治療が心血管イベントや糖尿病イベントを減少させるという直接的証拠はありません [2]

根尖性歯周炎(apical periodontitis)について

  • 全身疾患との関連を示す証拠はさらに限定的です [5-7]
  • 2018年のメタアナリシスでは、根尖性病変と心血管疾患の関連について「エビデンスの確実性は低い」と結論づけられました [7]
  • 根尖性歯周炎が全身疾患を引き起こすという因果関係は確立されていません [8-9]

警戒すべき主張

以下のような主張をする書籍は、現代の科学的コンセンサスと乖離している可能性があります:

  1. 根管治療した歯が癌や重篤な全身疾患を引き起こすという主張 [10-11]
  2. 健康な歯を予防的に抜歯すべきという推奨 [1][3]
  3. 根尖性歯周炎が癌、多発性硬化症、自閉症、アルツハイマー病などの直接的原因であるという主張(これらは理論として提唱されていますが、科学的根拠は不十分です) [12]

現代の適切な理解

2024年の総説では、口腔感染と全身疾患の関連について、以下のような慎重な立場が示されています: [5][13-14]

  • 統計的関連は存在する可能性がある
  • しかし因果関係は証明されていない
  • 適切な歯内療法(根管治療)は安全で効果的である [11]
  • 全身疾患のリスクを理由に健康な歯を抜歯することは正当化されない

もし「書籍」が根管治療の危険性を過度に強調したり、科学的根拠なく抜歯を推奨したりする内容であれば、現代の証拠に基づく医学とは一致しないと評価されます。

Would you like to explore the specific biological mechanisms that have been proposed to explain the association between oral infections and systemic diseases, and the current evidence supporting or refuting these mechanisms?

1.

From Focal Sepsis to Periodontal Medicine: A Century of Exploring the Role of the Oral Microbiome in Systemic Disease.

The Journal of Physiology. 2017. Kumar PS.

2.

Periodontal Disease and Systemic Illness: Will the Evidence Ever Be Enough?.

Periodontology 2000. 2013. Cullinan MP, Seymour GJ.

3.

Medical Theories and Professional Development. The Theory of Focal Sepsis and Dentistry in Early Twentieth Century Britain.

Social Science & Medicine. 1982. Dussault G, Sheiham A.

4.

The "Sufficient Cause" Model Framework Applied to the Periodontitis-Systemic Diseases Link.

Journal of Periodontology. 2021. Akinkugbe AA, Papapanou PN.

5.

Endodontic Inflammatory Disease: Systemic Consequences.

Advances in Experimental Medicine and Biology. 2025. Álvarez-Vásquez JL.

6.

Endodontic Medicine: Connections Between Apical Periodontitis and Systemic Diseases.

International Endodontic Journal. 2015. Segura-Egea JJ, Martín-González J, Castellanos-Cosano L.

7.

The Impact of Endodontic Infections on the Pathogenesis of Cardiovascular Disease(s): A Systematic Review With Meta-Analysis Using GRADE.

Journal of Endodontics. 2018. Aminoshariae A, Kulild JC, Fouad AF.

8.

Endodontics and Diabetes: Association Versus Causation.

International Endodontic Journal. 2019. Segura-Egea JJ, Cabanillas-Balsera D, Jiménez-Sánchez MC, Martín-González J.

9.

Does Apical Periodontitis Have Systemic Consequences? The Need for Well-Planned and Carefully Conducted Clinical Studies.

British Dental Journal. 2015. van der Waal SV, Lappin DF, Crielaard W.

10.

Root Canal Treatment and General Health: A Review of the Literature.

International Endodontic Journal. 2000. Murray CA, Saunders WP.

11.

Oral Inflammatory Process and General Health. Part 2: How Does the Periapical Inflammatory Process Compromise General Health?.

European Review for Medical and Pharmacological Sciences. 2011. Somma F, Castagnola R, Bollino D, Marigo L.

12.

Oral Inflammatory Process and General Health. Part 1: The Focal Infection and the Oral Inflammatory Lesion.

European Review for Medical and Pharmacological Sciences. 2010. Somma F, Castagnola R, Bollino D, Marigo L.

13.

Update on Focal Infection Management: A Czech Interdisciplinary Consensus.

International Dental Journal. 2024. Peřina V, Šmucler R, Němec P, Barták V.

14.

Impact of Systemic Health on Treatment Outcomes in Endodontics.

International Endodontic Journal. 2023. Segura-Egea JJ, Cabanillas-Balsera D, Martín-González J, Cintra LTA.

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