以前 インプラントをススメない理由 でインプラント周囲炎の話に触れました。今回は、それに関わる特に植立しないほうがよい患者さんの話です。

感染性心内膜炎という病気があります。
心臓の中に細菌が居ついて悪さする病気です。
合併症の有無や条件、すぐに治療できるかにもよりますが、命に関わる病気です。

AHA2007(米国心臓病学会) や JCS2008 では
出血を伴ったり、根尖を超えるような大きな侵襲を伴う歯科処置
(抜歯、歯周手術、スケーリング、インプラント植立、根尖を超える歯髄処置等)を行う際、
「Highest risk や ClassⅠ 」* に分類される患者さんには感染性心内膜炎を起こす可能性が高いため予防すべく抗生物質の術前投与が必要だと言っています。それでも完全に防げるわけではありません。

出血が起こると、その部位から多かれ少なかれ細菌が血流に入り込みます。それが心臓に届いて居ついてしまい悪さをするためそういうことが無いように、術前に抗生物質を服用し予防しましょうってことです。

この病気に、最悪な種類の菌がお口の中でプラークを形成する粘っこい細菌(インプラント周囲炎や歯周病の細菌)なので歯医者たるものとても気をつけなければなりません。

さて、ここでインプラントをススメない理由の一つにつながっていくのですが、これが策定されたのは10年近く前なんです。その頃、インプラント周囲炎ってそこまで騒がれていませんでした。

なので、植立後のリスクに関しての考察はされてないように思えます。

植立後に、インプラント周囲炎(加えて歯周病や歯髄に及ぶう蝕も)にかかると、最悪だと言われている種類の菌が血流にのって体内に持続的に入り続けることになります。感染性心内膜炎を引き起こすにはある一定時間以上病原微生物の侵入が持続されることという条件に合致します。この状態、本当に患者さんのことを考えている歯科医療関係者であれば見過ごせるわけはありません。

「Highest risk や ClassⅠ 」* に分類される患者さんに対して
「術前投与して植立すれば大丈夫。」という言葉は、本来なら

「口腔内の衛生状態をご自身でも良い状態に保つことができるようになって、定期的にメンテナンスにも通うことができるのであれば、術前投与して植立すれば、その場は概ね大丈夫。その後、何年かして周囲炎になってしまう可能性はそれでも少なからず(一本につき少なくとも25%ほど)あります。また、脳梗塞や認知症などになり高度なセルフケアができなくなった場合、周囲炎にはまず間違いなくなります。その際、感染性心内膜炎などの重篤な感染症にかかってしまう可能性は無視できません。」と、本当に患者さんのことを思う、「愛」ある人なら言うと思うんです。

  • インプラント植立したらあとは放ったらかしで、いざとなったらちゃんとケアしてないからだよ、と逃げる人。
  • 目先のお金だけに目がくらんで患者さんの人生なんか知るかって人。
  • 徹底的な指導で高度なセルフケアを習得させることができて、私が植立したインプラントは世界の名だたる達人やスペシャリストでも不可能な神の領域に達している、いやむしろ神なので神のご加護によって周囲炎にはなりませんっていう神様。
  • もしくは、自分で考える力がなくて検証せずに都合の良い耳障りの良いことだけ信じて取り入れてしまう人。

こういう人たちが「術前投与して植立すれば大丈夫。」って誤解をうむ表現で言ってのけます。

本来なら、植立したいって言うなら徹底的に衛生指導をして高度なセルフケアができるようなってもらう。定期的にメンテナンスに来るようにしてもらって周囲炎になったら問答無用で除去するよと約束してやるべきだと個人的には思います。なぜなら、少なからず命に関わることをするのですから、、、。

というわけで、下記の注釈に当てはまる方にはインプラントは特にススメません。

注釈「Highest risk や ClassⅠ 」* に分類される患者さん
AHA2007 Highest risk

  1. 人工弁置換あるいは、弁の修復に人工材料を使用。
  2. 感染性心内膜炎の既往がある。
  3. 先天性心疾患
  4. 心臓移植患者で弁に異常がある。

JCS2008 Class1:特に重篤な感染性心内膜炎を起こす可能性が高い疾患で予防すべき患者。

  • 生体弁、同種弁を含む人工置換患者
  • 感染性心内膜炎の既往がある患者
  • 複雑性チアノーゼ性先天性心疾患(単心室、完全大血管転移、ファロー四徴症)
  • 体循環系と肺循環系の短絡造設術を実施した患者

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